立地も広さも家賃も申し分ない物件が見つかると、すぐに契約したくなります。ただ、障害福祉の事業所に使う物件には、借りられるかどうかとは別に満たす条件があります。契約後に「この建物のままでは指定を受けられない」「工事が必要」と分かると、予定外の費用と開業の遅れにつながります。
この記事の要点
- 物件は、サービスの基準・建築基準法・消防法の3つの関門を越える必要がある。窓口はそれぞれ違う
- 特殊建築物への用途変更で変更部分が200㎡を超えると、原則として確認申請が必要。200㎡以下でも、基準を守る義務は残る
- 同じ建物でも、使い方と利用者によって必要な消防設備が変わる
- 平面図と検査済証を受け取り、契約前に3つの窓口で確かめる
3つの関門は、窓口がそれぞれ違う
| 関門 | 確かめること | 窓口 |
|---|---|---|
| サービスの基準 | 必要な部屋・広さ・立地 | 自治体の障害福祉の担当 |
| 建築基準法 | 用途の変更、採光、避難経路など | 自治体の建築指導の担当、建築士 |
| 消防法 | 誘導灯、防炎物品、自動火災報知設備、スプリンクラーなど | 所轄の消防署 |
1か所で「問題ない」と言われても、ほかの2つが通るとは限りません。
関門1 サービスの基準:必要な部屋と広さは、サービスごとに決まっている
B型なら訓練・作業室、相談室、洗面所、便所、多目的室が必要です。放課後等デイサービスは児童福祉法側の基準で、発達支援室などを設けます。グループホームの居室は、収納などを除いて1人7.43㎡以上で、立地も住宅地などに限られます。(注1)
見落としやすいのは、広さは足りても、部屋の数や配置が基準に合わないことです。相談室には話し声が漏れないような間仕切りが要る、といった条件もあります。立地では市街化調整区域にも注意が必要で、横浜市は、調整区域で開設するには開発審査会の許可が必要としています。(注2)
関門2 建築基準法:200㎡以下でも、確かめなくてよいわけではない
事務所や住宅を障害福祉の事業所にすると、建築基準法上の「用途の変更」になります。生活介護や就労支援の事業所は「児童福祉施設等」という特殊建築物に当たります。グループホームは間取りなどで扱いが分かれ、横浜市は既存住宅を使う場合に「共同住宅・寄宿舎」としての基準に合わせる必要があるかを確かめるよう求めています。(注3)
特殊建築物への用途変更で、変更部分が200㎡を超える場合は、原則として確認申請が必要です(2019年の改正で100㎡超から200㎡超に)。政令で定める類似用途間の変更には例外があります。落とし穴は「200㎡以下だから建築基準法は関係ない」と考えることです。国土交通省と消防庁は、申請が不要でも法令を守る必要は変わらないと通知しています。採光や避難経路が基準に合わなければ、改修が必要になります。申請がないぶん、行政が代わりに確かめてくれるわけではありません。(注4)
関門3 消防法:同じ建物でも、使い方と利用者で必要な設備が変わる
事務所だった物件をB型や放デイに使えば、消防法上は社会福祉施設の区分に変わります。原則として誘導灯が必要になり、カーテンなどは防炎性能のあるものにします。原則として消防法上の(6)項ハに当たる通所の施設では、自動火災報知設備は延べ面積300㎡以上で必要です。入居・宿泊を伴う場合や、建物の用途の構成によって扱いが変わります。(注5)
グループホームでは、利用者の障害支援区分によって消防法上の区分が変わり、スプリンクラーなどが必要になる場合があります。横浜市は、その区分に当たらない場合でも、新設時にスプリンクラーを設置するよう努めることを求めています。つまずきやすいのは、設備工事の費用と期間を見込まずに契約してしまうことです。(注3)
契約前に、書類を受け取り、3つの窓口で確かめる
最初の一歩は、貸主や仲介会社から平面図と、建築確認済証・検査済証を受け取ることです。検査済証がない場合は注意が必要で、原則として用途変更できないと案内する自治体もあります。国土交通省は、検査済証のない建物の法適合状況を建築士などが調べる方法を示していますが、時間と費用がかかります。(注6)
横浜市の日中活動系サービスでは、事前相談で物件の平面図やレイアウト、建築・消防などの確認状況を提出し、新設の申込期限は希望月の4か月前の末日です(共生型は5か月前)。グループホームや障害児通所支援(放デイなど)は、それぞれの担当の手続きを確認します。物件の確認は、この期限から逆算して進めます。(注7)
契約前の確認リスト
- 平面図と、建築確認済証・検査済証を受け取れるか
- その図面で、始めるサービスの基準(部屋・広さ・立地)を満たせるか
- 用途を変える部分は200㎡を超えるか。超えなくても、建築基準法と消防法で何が必要か
- 工事が必要なら、費用と期間、負担を、契約前に貸主と決めておく
物件探しのゴールは「借りること」ではなく、その建物で指定を受け、続けること
3つの関門は手間がかかっても、どれも契約前に確かめられます。先に確かめておけば、工事の有無と開業までの期間が見え、事業計画の数字も固まります。いい物件ほど、確認の順番を守ることが近道になります。
ご相談について
物件の図面をもとに、サービスの基準と横浜市の事前相談の準備を一緒に確かめます。建築・消防の判断は、建築士や消防署への確認が必要です。
注と出典
- 指定基準(e-Gov法令検索) 第81条・第188条・第200条・第210条、児童福祉法に基づく指定通所支援の基準(e-Gov法令検索) 第68条
- 横浜市「日中活動系サービス」(2026年9月29日更新)
- 横浜市「横浜市 障害者グループホーム」(2024年7月版、PDF)
- 建築基準法(e-Gov法令検索) 第6条第1項第1号・第87条第1項、国土交通省・消防庁の通知(2019年6月24日、PDF)、名古屋市「用途変更に係るよくある質問」(PDF)
- 生活介護・就労系・放デイなどは原則として消防法施行令別表第一(6)項ハ。利用者の状態や施設の形態で区分が変わる場合がある。消防法(e-Gov法令検索) 第8条の3、消防法施行令(e-Gov法令検索) 第4条の3・第21条・第26条
- 国土交通省「既存建築物の活用の促進について」、山梨県「用途変更に関するよくある質問と回答」(PDF)
- 注2の横浜市のページ(日中活動系サービス)。障害児通所支援は横浜市「障害児通所支援事業所の新規指定」
更新日:2026年10月16日 執筆:行政書士 大塚栄一

