横浜市の事前相談では、給付費の表とは別に「生産活動に係る収支見込表」(様式5)を出します。市はこの表で「生産活動による客観的で根拠がある収入が確保され、適切な賃金・工賃が支払われる実現性のある見込みがあるか」を確認するとしています(注1)。
表を埋める前に、何の仕事で収入を得て、どこで、誰の支援で作業するのかを決めておく必要があります。その構想と根拠がなければ、数字は書けません。報酬の上の区分に移れるかも、生産活動で工賃を払えるかにかかっています。
この記事の要点
- 様式5は開所月から12か月の収支を月ごとに書き、利用者・収入・支出のそれぞれに根拠を書く表
- 市の記載例は、すでにB型を運営する法人を想定している。初めて開業する人は、別の根拠を用意する
- 収益源(受託作業か自主製品か)と作業場所(事業所内か施設外就労か)は分けて考える
- 工賃の「目標」と、収入から経費を引いた「原資の裏付け」は別のもの
市は、生産活動の収支見込表で何を確かめるのか
様式5は、開所月から12か月の収支を月ごとに書く表で、利用者・収入・支出のそれぞれに数字の根拠を書く欄があります(注2)。問われているのは書き方より中身です。売上が立つ根拠があるか。その売上から工賃を払える見込みがあるか。
横浜市の条例は、生産活動について、地域の実情や製品・サービスの需給状況を考慮すること(努力義務)、作業時間や作業量が利用者の過重な負担にならないよう配慮すること、防じん設備や消火設備など安全のための措置をとることも求めています(注3)。売上と同時に、利用者がその作業を無理なく、安全に担えるかが問われます。
記載例は、すでに事業所を持つ法人を想定している
記載例の法人は、すでにB型事業所を運営している社会福祉法人です。利用者の見込みは、既存の事業所からの移行見込み、法人への問い合わせ、特別支援学校の実習の受け入れ、既存事業所の比率から出した1日平均利用者数で書かれています。収入も、公園清掃の委託は契約金額と契約見込みの日付で、パンの製造・販売は平均購買金額と月ごとの来客見込数で示しています(注2)。
初めて開業する人には、既存の事業所も取引の実績もありません。以下は当事務所の整理です。
| 記載例の根拠(既存法人) | 初めて開業する人が用意できる根拠の例 | |
|---|---|---|
| 受託作業 | 契約金額と、契約を結ぶ見込みの日付 | 発注元の候補と、作業単価・月の作業量についての合意 |
| 自主製品 | 平均購買金額×来客見込数 | どこで、誰に、いくらで売るか。二つの数字を何から出したか |
| 利用者 | 既存事業所からの移行、問い合わせ実績 | 集め方の計画と、一人ずつ確かめた見込み |
※左列は横浜市の様式5記載例による。右列は当事務所の整理です。どの程度の根拠があれば足りるかは市の資料からは分からないため、事前相談で確かめてください。
収益源と作業場所は、分けて考える
一つ目の問いは、何を収益源にするかです。企業や行政から作業を請け負う「受託作業」か、自ら作って売る「自主製品」か。二つ目は、どこで作業するかです。事業所の中か、企業の中で作業する「施設外就労」か。施設外就労は、企業から請け負った作業を企業の中で行う形で、受託作業の一つの形でもあります(注4)。
受託作業については、横浜市に障害者就労施設等からの優先調達の制度があり、就労継続支援の事業所は市が随意契約で発注できる対象に入っています。令和7年度の市全体の調達実績は約5億円でしたが(注5)、市内の施設全体への発注額で、新しい事業所への発注を保証するものではありません。企業や行政からの依頼を施設につなぐ共同受注センターもあります(注6)。開業後の運営指導では、取引先ごとの売上の構成比や事業所との関係なども資料で示します(注7)。
自主製品は、材料費や在庫の管理が必要で(注8)、売れ残れば工賃の原資が減ります。食品を製造・販売する場合は、営業の内容に応じて食品衛生法上の許可や届出が必要で、許可の対象業種では施設基準を満たす必要があります(注9)。物件を決める前に確認しておきます。
施設外就労を選ぶなら、職員をどう分けるか
施設外就労は、企業との請負契約で、作業の完成の責任は事業所を運営する法人が負います。利用者への指導は企業ではなく事業所が行い、企業の従業員と一緒に作業を処理することはできません(注4)。職員配置は次のように数えます(注4)。
- 施設外就労の日は、施設外で作業する利用者の数に対して、報酬の算定に必要な数の職員を配置する
- 本体の事業所には、施設外就労をする人を除いた平均利用者数に対して、必要な数の職員を配置する
- サービス管理責任者は、施設外就労の人を含めた全体の平均利用者数に対して配置する
- 施設外就労をする人数の合計は、利用定員を超えられない
施設外就労の日は、本体と企業の両方に職員が要ります。開業直後の職員数で分けられるかを先に確かめます。本体の配置は「前年度の平均利用者数」で数えますが、新しい事業所は開設から6か月未満は利用定員の90%を利用者数とする扱いがあります(注10)。施設外就労をする場合にこれをどう当てはめるかは、確認した通知には書かれていません。開業時から施設外就労を予定するなら、事前相談で市に確かめる点です。
工賃の「目標」と、その「原資の裏付け」は別のもの
横浜市の条例は、年度ごとに工賃の目標水準を決め、利用者に知らせて市長に報告するよう求めています。これは目標です。一方で、工賃は生産活動の収入から必要な経費を引いた額から払い、給付費を工賃に充てることは原則としてできません(注11)。こちらが原資の裏付けです。
様式5の記載例は、利用者工賃を「1人あたりの平均月額工賃×各月の利用者数」で支出に置いています(注2)。裏付けになるのは収入の根拠のほうで、収入から経費を払った残りが目標に届くかを確かめます。たとえば1日平均利用者数8人で平均工賃月額1万円を目指すなら、単純計算で月8万円、年間96万円の原資が必要です(注12)。1か月の工賃の平均額は3,000円を下回ってはならないことも、条例で定められています(注11)。
※年間を通じて1日平均利用者数が8人で一定と仮定した単純計算です。報酬区分の判定に用いる実際の平均工賃月額は、年間の工賃支払総額と平均利用者数から算出します。
事前相談の前に確かめること
- 収益源(受託作業か自主製品か)と、作業場所が決まっているか
- 収入を裏付ける相手(発注元、販売先、受入企業)がいるか
- 作業単価と作業量、または販売単価と販売数を、何から出したか説明できるか
- 食品なら、許可か届出か、許可なら施設基準を、物件の段階で確かめたか
- 施設外就労なら、本体と施設外に職員を分けられるか
- 工賃の目標が、収入から経費を引いた残りで裏付けられているか
どの程度の根拠資料が求められるか、施設外就労をする新しい事業所の職員配置をどう数えるか。この二つは市の資料からは読み取れませんでした。市の最新の様式を確認したうえで、事前相談で確かめてください。
就労継続支援B型の開設を検討している方へ
何を仕事にし、どこで、誰の支援で作業するのか。生産活動の構想と様式5の根拠を、事前相談の前に一緒に整理します。
出典
- 横浜市「事前相談に係る資料(202604時点)」「提出書類について」提出書類19の説明欄
- 同資料【様式5】生産活動に係る収支見込表と記載例(就労継続支援B型)
- 横浜市指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備、運営等の基準に関する条例(平成24年横浜市条例第64号) 第86条(第190条でB型に準用)
- 厚生労働省「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(障障発第0402001号、最終改正 令和7年3月31日) 2(2)p.18〜20
- 横浜市「障害者就労施設等からの優先調達」(令和8年度方針、令和7年度実績 504,071,828円)
- 横浜市「共同受注事業」
- 横浜市「令和8年度障害福祉サービス事業所運営指導 事前提出・当日準備資料」「生産活動シート」「セルフチェックシート(運営編)工賃編」
- 「就労支援の事業の会計処理の基準」(横浜市の事前相談資料 参考資料1)
- 横浜市「食品衛生法改正に関するご案内」、横浜市食品衛生課「食品衛生関係 許可・届出業種一覧」
- 厚生労働省「指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」(障発第1206001号) 第二の2(5)②(新旧対照表 p.16〜17)
- 横浜市条例第64号 第189条、第190条で準用する第180条第6項。国の基準は平成18年厚生労働省令第171号 第201条・第202条
- 注4の通知 4(3)(平均工賃月額の算出方法)
更新日:2026年10月23日 執筆:行政書士 大塚栄一

