令和6年度決算で、障害福祉の事業所は黒字56.4%・赤字43.6%に分かれました(前の記事)。同じ制度の中で、何が違うのか。福祉医療機構(WAM)と厚生労働省の公表データから、差が表れる場所を見ます。ここで分かるのは「どこに差があるか」で、「何が黒字を決めるか」という因果までは確かめられません。
この記事の要点
- 黒字と赤字の差は、単価にも表れるが、利用率と人件費率に大きく表れる
- 定員が大きいほど有利、特定の法人が有利、とは言えない
- 収支差率の高い報酬体系は見直されることがある
- 公表データから、開業前に答えを用意したい6つの問いが見える
黒字と赤字の差は、利用率と人件費率に大きく表れる
WAMは、融資先の決算で黒字の事業所と赤字の事業所を比べています。2024年度決算の3つのサービスです。(注1)
| 2024年度決算 | 利用率(黒字/赤字) | 利用者1人1日の単価(黒字/赤字) | 人件費率(黒字/赤字) |
|---|---|---|---|
| 就労継続支援B型 | 83.3%/75.4% | 9,257円/8,932円 | 60.0%/79.6% |
| 就労継続支援A型 | 83.1%/75.0% | 10,362円/9,797円 | 55.4%/78.2% |
| 生活介護 | 85.3%/78.8% | 14,884円/13,476円 | 61.0%/81.9% |
単価にも差があります。黒字の事業所の単価は、赤字の事業所よりB型で約3.6%、A型で約5.8%、生活介護で約10.4%高く、とくに生活介護では小さくない差です。そのうえで目立つのが、利用率の8ポイント前後の差と、人件費率の20ポイント前後の差です。放課後等デイサービスでも、利用率に12.4ポイントの差がありました。(注2)
なお、人件費率は収入を分母にした数字です。利用率が低くて収入が少なければ、職員の数が同じでも人件費率は上がります。人件費率の高さを、それだけで赤字の原因とは言えません。
利用率も人件費率も、開業前の事業計画で自分が数字を置く項目です。ただしWAMの対象は社会福祉法人が中心の融資先で、開設1年未満の事業所も含みません。株式会社の多いサービスや開業直後の事業所に同じ差があるかは、このデータだけでは分かりません。
定員は「大きいほど有利」とは言えない
厚生労働省は、定員規模別の収支差率も参考表で公表しています。(注3)
- B型:21〜40人の区分が20人以下を上回る。ただし差は令和4年度の約7ポイントから、令和6年度は2ポイント程度に縮んだ
- 児童発達支援:反対に、小さい区分のほうが高い
- グループホーム(介護サービス包括型):定員4人以下の区分はどちらの年もマイナス
言えるのは、サービスごとに収支差率の高い規模帯と低い規模帯がある、ということまでです。
| 定員規模別の収支差率 | 令和4年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| B型 20人以下 | 2.8% | 5.5% |
| B型 21〜40人 | 9.8% | 7.7% |
| 児童発達支援 10人以下 | 7.9% | 14.4% |
| 児童発達支援 11〜20人 | 5.9% | 8.8% |
「株式会社だから」「社会福祉法人だから」では説明できない
同じ参考表の経営主体別では、B型は令和4年度に社会福祉法人が営利法人を大きく上回り、令和6年度には逆転しました。グループホームはその反対です。サービスによっても、年によっても順番が入れ替わります。法人の種類の違いは、「社会福祉法人のほうが有利なのは本当か」の記事で別に確かめます。
| 経営主体別の収支差率 | 令和4年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| B型 社会福祉法人 | 9.7% | 5.0% |
| B型 営利法人 | 1.1% | 9.5% |
| GH(介護サービス包括型) 社会福祉法人 | 9.1% | 8.5% |
| GH(介護サービス包括型) 営利法人 | 13.0% | 2.3% |
高い収益が続くとは限らない。報酬は見直される
財務省の予算執行調査(令和5年度、B型5,113か所)では、平均利用時間が4時間未満のB型の収支差率が17.0%で、全体の9.9%を大きく上回っていました。その後2024年度の改定で短時間利用への減算が入り、2026年度の改定では工賃の区分と新規指定の基本報酬が見直されています。(注4)
サービス別の収支差率も動きます。放課後等デイサービスは、令和元年度決算で10.7%、令和4年度で5.8%、令和6年度で9.1%でした。いまの報酬で成り立つかだけでなく、見直しがあっても成り立つかを確かめる必要があります。(注5)
開業前に答えを用意したい6つの問い
「こうすれば黒字になる」という答えではなく、事業計画に自分で根拠を書き込むための問いです。
- 利用率をどう実現するか:計画に置く利用率の利用者はどこから来るか。地域の対象者、近くの事業所、相談支援とのつながりで説明できるか。上の表の利用率は目標値ではない
- 人件費率はいくらになるか:職員配置を先に決め、利用者が少ない開業直後にどこまで上がるか試算したか
- その定員は、そのサービスで成り立つか:規模による差の出方はサービスごとに違う
- 単価を決める要件に対応できるか:B型なら工賃、生活介護なら支援の必要度の高い人の受け入れ、放デイなら支援時間など
- 報酬が見直されても成り立つか:特定の加算や提供形態に頼っていないか。新規指定の報酬で計画しているか
- その地域に、そのサービスは足りていないのか:全国で伸びていても、地域によっては十分にある。1とつながる
開業後何年で黒字になるかは、公表データでは分からない
新しい事業所が何年で黒字になるかを示す公的データは、見当たりません。また「赤字の割合」は調査の対象で大きく変わり、B型はWAMの分析で30.4%、厚生労働省の調査で46.8%でした。どちらかが誤りということではありません。
黒字の事業所は、利用率と人件費率の両方で成り立つ形を持っています。その形を開業前に自分の数字で組めるかどうかが、計画づくりの中心です。
注と出典
- 福祉医療機構「2024年度 日中活動系障害福祉サービスの経営状況について」(2026年7月3日、PDF)。B型は平均工賃月額に応じた報酬体系の事業所。開設主体に占める社会福祉法人はB型79.2%、A型56.1%、生活介護92.4%。開設1年未満は含まない
- 福祉医療機構 リサーチレポート(令和7年度公表分、児童系)
- 令和4年度:令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果、令和6年度:e-Stat 令和7年障害福祉サービス等経営概況調査 参考表1。調査の種類が異なる。規模別・経営主体別は客体数が少なく、厚生労働省も参考数値としている。集計数が10件前後以下の区分は省いた
- 財務省「令和6年度予算執行調査 障害福祉サービス等」(PDF)、厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定」
- 令和元年度・4年度は経営実態調査、令和6年度は経営概況調査で、調査の種類が異なる
更新日:2026年10月16日 執筆:行政書士 大塚栄一

