障害福祉事業は「安定収益」なのか。伸びる市場と、黒字・赤字に分かれる事業所

「報酬は公費だから取りっぱぐれがない」「利用者は増え続けている」。開業情報でよく見るこの2つは、どちらも事実です。ただし、市場が伸びていることと、これから開く事業所の経営が安定することは、別の問題です。厚生労働省の統計で、二つを分けて見ます。

この記事の要点

  • 障害福祉サービスの費用額は、令和2年度の2.9兆円から令和6年度の4.18兆円へ伸びた
  • それでも令和6年度決算では、回答した事業所の43.6%が赤字だった
  • 介護と比べると、赤字の割合は高いが、全体の収支差率も高い
  • 市場の成長と事業所の安定は別。問うべきは「自分の計画が成り立つか」

市場は伸びている。費用額は4年で約1.4倍

費用額(公費と利用者負担の合計)は、令和2年度の2.9兆円から令和6年度の4.18兆円になりました。令和6年度の伸びは12.1%で、利用者数の増加(5.8%)と1人当たり費用額の増加(6.0%)がほぼ半分ずつです。(注1)

1か月平均の利用者は、同じ期間に128万人から163万人へ。障害児は37万人から56万人へと、約5割増えました。

主なサービスでは、事業所の数とともに費用額も伸びています。ただし、この数字だけでは事業所どうしの競争の状況までは分かりません。地域ごとの需給は、総量規制の記事で扱います。(注2)

それでも、回答事業所の43.6%は赤字だった

厚生労働省とこども家庭庁の「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査」は、全国7,263か所の令和5年度・6年度決算を集計しています。報酬改定の基礎になる調査です。

  • 全サービスの収支差率(収入に対する残りの割合)は6.5%。主なサービスはすべてプラス
  • その一方で、回答した事業所の43.6%が赤字。56.4%が黒字
  • 放課後等デイサービスは収支差率9.1%と高いが、赤字は45.4%

平均がプラスでも、結果は事業所ごとに大きく分かれています。反対に、半数を超える事業所が黒字で、この市場で事業として成り立っているところも多い。(注3)

令和6年度決算収支差率赤字の事業所の割合
全サービス(加重平均)6.5%43.6%
放課後等デイサービス9.1%45.4%
生活介護6.3%31.0%
就労継続支援A型6.8%41.0%
就労継続支援B型6.2%46.8%
GH(介護サービス包括型)6.9%39.0%

介護と比べると、赤字は多いが、収支差率も高い

「日本の会社の6割は赤字」という数字は、税務上の所得で法人単位に数えたもので、比べる相手にはなりません。同じ設計で同じ令和6年度決算を集計した介護の調査と並べます。

令和6年度決算障害福祉介護
全サービスの収支差率6.5%4.7%
赤字の事業所の割合43.6%37.5%

障害福祉は、赤字の割合が6.1ポイント高い一方、収支差率も1.8ポイント高い。「障害福祉は赤字になりやすい業界」とは言い切れず、43.6%は「同じ市場の中で結果が分かれている」ことを示す数字として読むのが当たっています。(注4)

なお、同じ回答事業所の赤字の割合は、令和5年度の37.2%から6.4ポイント上がっています。ただし比べられるのは2年分で、間に2024年度の報酬改定もありました。傾向とまでは言えません。

「安定収益か」への答え:市場の成長と、事業所の安定は別の問題

市場の伸びは、公費と需要が支えています。ただ、それは将来の安定まで約束するものではなく、個々の事業所の安定は、なおさら制度が保証するものではありません。事業所の結果は、事業の組み立てで分かれます。開業前に使える形にすると、次の3つです。

  1. 「市場が伸びている」は、参入する理由にはなっても、成り立つ根拠にはならない
  2. 業界の平均からは、自分の事業所の見通しは立たない
  3. 問うべきは、自分の事業計画が成り立つかどうか

需要は確かに広がっています。その需要に応え続けるには、支援の質と、事業としての収支の両方が要ります。この2つはどちらかを選ぶものではありません。黒字と赤字の事業所で何が違うのかは、次の記事で確かめます。

開業を考えている方へ

考えているサービスと地域、物件や人の見通しを伺い、計画のどこを確かめるかを一緒に整理します。

注と出典

  1. 費用額・利用者数:障害福祉サービス等の費用の状況について(第151回社会保障審議会障害者部会 資料2、2025年10月20日)
  2. 費用額は年度の合計、事業所数は各年10月1日時点で、集計の範囲も一部違うため、伸び率の比較にとどめる。費用額の伸びには報酬改定による単価の上昇も含まれる。事業所数:令和6年社会福祉施設等調査の概況
  3. 収支差率は物価高騰対策関連補助金を含まない値で、全サービスは費用額による加重平均。赤字の割合は回答事業所に占める割合。赤字の判定基準は調査資料に明記がない。令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果の概要(PDF)
  4. 両調査とも事業所単位の抽出調査で、物価高騰対策関連補助金を除いた収支差率を使っている。収入の範囲、サービスの構成、抽出率などが異なるため、比較は参考値として扱う。令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(PDF)

更新日:2026年10月16日 執筆:行政書士 大塚栄一