横浜市で就労継続支援A型を開業する前に。利用者に払う賃金を、どう生み出すか

就労継続支援A型(以下、A型)は、障害のある人と事業所が雇用契約を結び、働く場を提供するサービスです。

横浜市の障害者プラン素案では、利用が 778人分から975人分へ。およそ25%の増加 です。

利用が増えるなら、利用者を集められれば事業は成り立つ。

A型については、そうは言えません。

A型の事業所は、利用者を雇う側でもあるからです。雇用契約を結べば、原則として最低賃金以上の賃金を毎月払います。

この記事のポイント

  • A型の賃金は、原則として報酬ではなく生産活動から払う
  • 全国の半分の事業所が、この基準を満たしていなかった
  • 横浜市は、事前相談で生産活動の収支見込みを5年分求める
  • 開業前に決めるのは、「誰が、どんな仕事で働くか」

賃金は、原則として報酬から払えない

A型の事業所にも、ほかのサービスと同じく報酬(給付費)が支払われます。

では、利用者の賃金もそこから払えばよいのか。

国の指定基準(第192条)は、そう考えていません。

  • 生産活動の収入から経費を引いた額が、利用者に払う賃金の総額以上でなければならない
  • 賃金の支払いに報酬を充ててはならない(原則)

報酬は、職員による支援など福祉サービスに対して支払われます。

利用者の賃金は、仕事から生み出す。

A型は、福祉サービスと、賃金を払える仕事を、同時に成り立たせる事業です。

全国の半分が、基準を満たしていなかった

この仕組みを実際に回すことの難しさは、国の資料に表れています。

厚生労働省の資料(令和6年11月)によると、令和5年3月末の時点で、

  • 経営状況を把握した全国の事業所:3,715
  • 基準を満たしていなかった事業所:1,882(50.7%)
  • うち、前年も満たしていなかった事業所:1,507

国は令和6年度の報酬改定で、A型の基本報酬に使う「スコア方式」を見直しました。

生産活動の収支が賃金の総額を上回れば加点、下回れば減点。収支が、これまで以上に報酬へ反映される仕組みになりました。

同じ資料には、もう一つの数字があります。

令和6年3〜7月に、ハローワークが解雇の届出で把握したA型の利用者は 4,279人(毎月10人以上の解雇届が出た事業所に限った数字)。

8月末までに再就職が決まった人は936人。B型への移行(予定を含む)が2,073人とされています。

資料は、これらの事業所の9割超で、生産活動の収支が赤字だったと注記しています。

事業所が続けられなくなれば、そこで働いていた人は職場を失います。賃金の原資を生み出せるかは、経営の問題であると同時に、利用者の働く場の問題です。

横浜市が確かめようとしていること

横浜市の資料からも、市がこの点を重く見ていることが分かります。

  • 一般就労への移行:A型から一般就労へ移る人を91人から190人へ、約2倍にする目標(素案147ページ)
  • 事前相談:生産活動の収支見込みを、開所から5年分求める
  • 市の補助:設置費補助(令和9年度分)の対象には入っていない
  • 総量規制:対象になりうるサービスに挙げられている(適用は示されていない)

市はA型を、働き続ける場であると同時に、次の職場へ進む場としても見ています。

そして事業を始める前に、その仕事で賃金を払い続けられるかを確かめようとしています。

「定員10人から始められる」の意味

市の条例では、A型の最低定員は 10人。B型の20人より小さく、市内には37事業所あります(2026年4月)。

小さく始められる事業に見えるかもしれません。

けれど、10人と雇用契約を結ぶということは、10人分の賃金を毎月払えるだけの仕事を用意するということです。

開業前に設計することを並べます。

  • 誰が働くのか。障害の特性、働ける時間、通勤
  • どんな仕事で収入を得るのか。企業からの受託、自主製品、施設外での就労など、取引先と単価
  • 生産活動の収支が、賃金の総額を上回る見込みがあるか
  • 労働時間と賃金をどう設定するか
  • サービス管理責任者と職員を、どう確保し、育てるか
  • 一般就労への移行を、どう支えるか

働く人の側にも変化があります。

令和7年10月に、本人の希望や能力に合った働き方を一緒に整理する「就労選択支援」が始まりました。

令和9年4月からは、支援体制の整備状況を踏まえつつ、新たにA型を利用する場合も、原則として就労選択支援を利用することになります。

A型は「誰が、どんな仕事で働くか」から決まる

開業を考えると、物件と職員の確保から始めたくなります。

けれども、考える順番はその逆です。

誰が働くか・どんな仕事か → 収支が賃金を上回るか → 労働時間・賃金・人員 → 報酬・加算 → 条件に合う物件

仕事の内容によって、必要な作業場の広さも設備も、立地も変わります。

仕事の見通しが立たないまま物件と人を先に用意すると、賃金を払えるかどうかを、開所してから確かめることになります。

「横浜でA型は足りているか」ではなく、

「利用者に、原則として最低賃金以上を払い続けられる仕事を、自分は用意できるか」。

A型の開業を考えるなら、この問いから始めたいところです。

横浜市でA型の開設を検討している方へ

生産活動の内容と5年分の収支見込み、人員と物件の条件を、事前相談の前に一緒に整理します。労務に関わる事項は、提携する社会保険労務士と連携します。

出典

更新日:2026年10月14日 執筆:行政書士 大塚栄一