映画『海街diary』で見る、遺言で「防げること」と「防げないこと」

鎌倉の四季と、静かな食卓。『海街diary』(2015年、是枝裕和監督)は、美しい家族の映画として記憶されていると思います。

ここでは少し無粋を承知で、この映画を相続の目で観直します。物語の内容に触れますので、ご注意ください。

この記事のポイント

  • 15年会っていない子も、最期を看取った子も、相続分は同じ
  • 未成年の相続人には代わりに話す人が要る。遺言で未成年後見人を指定できる
  • 実家の「とりあえず共有」は、問題の先送りになりやすい
  • 遺言でも、遺留分までは消せない

父が亡くなったときの家族

物語の起点は、三姉妹(幸・佳乃・千佳)の父の死です。

父は三姉妹の母と離婚し、すずの母と再婚します。すずの母はすでに亡くなっていて、父は最後に陽子さんと結婚していました。

立場人
配偶者陽子さん(今の妻)
子幸・佳乃・千佳(最初の妻との子)、すず(2番目の妻との子)
相続人にならない離婚した最初の妻、亡くなった2番目の妻、陽子さんの連れ子(養子縁組がない場合)
家系図(父の相続人になる人・ならない人)
家系図(父の相続人になる人・ならない人)

相続人は、亡くなった時点で法律上どういう関係にあったかで決まります。

論点1 15年会っていなくても、取り分は同じ

三姉妹は、15年ほど父と会っていませんでした。すずは父と暮らし、最期を見送っています。

それでも法律上の取り分は同じです。陽子さんが2分の1。残りを4人で分け、一人8分の1ずつになります。

介護などの特別な貢献は「寄与分」で調整できることがあります。ただし認められるハードルは高い。確実に反映させたいなら、遺言で意思を示しておく方が確かです。

法定相続分
法定相続分

論点2 未成年のすずを、誰が代理するのか

父が亡くなったとき、すずは14歳でした。

遺産分割の話し合いには相続人全員が関わりますが、未成年者はひとりでは加われません。実母は亡くなり、陽子さんは養子縁組をしていないので親権者ではありません。

この場合は、家庭裁判所が未成年後見人を選びます。最後に親権を行う人は、遺言で未成年後見人を指定しておくこともできます(民法839条)。指定がないときや、指定された人が引き受けないときは、家庭裁判所が選びます。

論点3 鎌倉の家をどうするか

物語の終盤、「家を売ったら」という話が出ます。ここからは父の相続ではなく、姉妹が暮らす鎌倉の家(祖母から受け継がれてきた家)について、法律上の仮定を置いて考えます。実家のように一つしかない不動産の分け方には、大きく4つあります。

分け方中身向いている場合
現物分割家をそのまま誰かが取得する住み続けたい人がいる
代償分割取得した人が、ほかの相続人にお金を払う住み続けたい人に資金がある
換価分割売ってお金を分ける公平さを優先する
共有複数人の名義にする判断を先送りしたいとき(ただし後述の注意あり)
実家の分け方4つ
実家の分け方4つ

共有にすると、家全体を売るなどの変更には原則として共有者全員の同意が、貸すなどの管理には持分の過半数が必要になります(民法251条・252条)。次の世代で相続が重なると共有者は増え、解決はもっと難しくなります。

「とりあえず共有」は、多くの場合、問題の先送りです。三姉妹が家に住み続けたいなら、祖母が生前に「家は誰に」と遺言で示しておくのが、迷いの少ない方法だったはずです。

遺言で防げること、防げないこと

3つの論点は、「遺言が一通あったら」でかなり解消されます。取り分の調整、未成年後見人の指定、実家の行き先。遺言は、残される人たちの、その後の暮らしの設計図でもあります。

ただし万能ではありません。たとえば「預金はすずに多く」と大きく偏った遺言を残しても、ほかの相続人には「遺留分」という最低限の取り分があります。それを侵害すれば、「遺留分侵害額請求」という形で争いになりえます。

遺言は「防げること」を大きく増やしてくれます。けれど「何でも自由に決められる」わけではありません。

映画をもう一度観ると、あの家族の何気ない会話が、少し違って聞こえてくるかもしれません。

遺言の作成・見直しについて

再婚や前の配偶者との子がいる家族、未成年の子がいる家族、実家が財産の中心の家族。事情に合わせて遺言の内容を一緒に考えます。

更新日:2026年10月15日 執筆:行政書士 大塚栄一