パソコンで書ける「デジタル遺言」は、始まるまで待つべきか

「そのうちパソコンで遺言を書けるようになるらしいから、その時に考えよう」。

2026年6月の民法改正を受けて、そう考える方もいるかもしれません。

結論から書くと、待つ必要はありません。理由を順に見ていきます。

この記事のポイント

  • パソコンで作れる「保管証書遺言」は、遅くとも2029年6月24日までに始まる
  • 保管証書遺言でも、本人が全文を口で述べる手続きが要る
  • 遺言はあとから書き直せる。今書いたものが無駄にはならない

改正は3回に分けて始まる

2026年6月24日に公布された改正法(令和8年法律第45号)は、施行が3つの時期に分かれています。いずれも政令で定める日で、2026年10月15日時点では未定です。

内容施行の期限
遺言の押印が不要になるなど2027年6月24日まで
成年後見制度の見直し2028年12月24日まで
保管証書遺言の創設など2029年6月24日まで

パソコンで作れる遺言は、いちばん遅い枠です。それより早く始まる保証はありません。

先に変わるのは、押印だけ

最初に始まるのは、自筆証書遺言の押印が不要になることです。

ただし、全文・日付・氏名を自分の手で書くという条件は、そのまま残ります(改正後の民法968条1項)。

手書きそのものが難しい人にとっては、押印がなくなるだけでは事情は大きく変わりません。

パソコンで作っても、全文を声に出して述べる

保管証書遺言は、次のような仕組みです。

  1. パソコンなどで作った遺言を、法務局に提出する
  2. 本人が対面かウェブ会議で、遺言の全文を口で述べる(口がきけない人には、通訳などによる方法もある)
  3. 遺言書保管官が本人確認をし、遺言者が署名(またはそれに代わる措置)をする

法務省は、口で述べる手続きを「遺言者の真意に基づかない遺言が作成されることを防止」するためだと説明しています。

書く負担は減ります。けれど、本人がその場で、自分の意思として遺言の内容を示せることが前提です。判断能力が落ちてからでは間に合わない。そこは今と変わりません。

今すぐ使える制度がある

待たなくても、自筆証書遺言を法務局に預ける制度は、すでにあります。

  • 手数料は1通3,900円
  • 相続が始まったあとの家庭裁判所の検認が要らない
  • 原本は遺言者の死亡後50年、画像データは150年保管される
  • 2020年7月から2026年9月末までに、累計131,818件の申請があった

ただし、法務局が確かめるのは形式だけです。「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と法務省自身が書いています。申請は本人が法務局に行く必要があり、代理人は使えません。

預けただけでは、家族に届かない

見落とされやすいのが、通知の設定です。

「指定者通知」を使うと、法務局が遺言者の死亡を確認したときに、あらかじめ指定した人(3人まで)へ通知が届きます。

これは自動では設定されません。遺言者自身が希望して、通知先を指定しておく必要があります。預けることと、見つけてもらうことは、別です。

遺言は、あとから書き直せる

遺言は、いつでも全部または一部を撤回できます(民法1022条。今回の改正でも変わっていません)。方式をそろえる必要もありません。

それが、待たなくてよい理由です。保管証書遺言が始まったら、そのとき書き直せばよい。今書いた遺言が無駄にはなりません。

この改正の底にある「本人の意思」

今回の改正は、成年後見制度の見直しと同じ法律で行われました。

遺言は、判断できるうちに意思を残す仕組み。成年後見は、判断能力が落ちたあとの暮らしを支える仕組みです。目的は違っても、どちらも「本人の意思をどう残し、どう支えるか」という問題の周りにあります。

改正後の成年後見制度は、後見人を選ぶときに考える事情の先頭に、本人の意見を置きました。新しい制度を待つという判断は、実際には「その日に、自分で決められる状態でいるか」の判断でもあります。

遺言の作成・見直しについて

今の制度でどの方式が合うか。将来の書き直しも含めてご相談を承ります。

更新日:2026年10月15日 執筆:行政書士 大塚栄一