親が亡くなり、最初に直面する現実の一つが葬儀です。
まとまった費用がかかるのに、まさにそのとき、銀行口座は動かせなくなります。「動かせなくなるお金」と「すぐに必要になるお金」が、真正面からぶつかる場面です。
この記事のポイント
- 口座が止まるのは、金融機関が死亡を知ったとき。死亡届とは連動しない
- 問題は「お金がない」ことではなく、「あるのに動かせない」こと
- 遺産分割の前でも、一定額までは相続人が単独で払い戻せる(同じ金融機関で150万円まで)
口座は、死亡と同時に止まるわけではない
市区町村に死亡届を出しても、その瞬間に銀行口座が止まるわけではありません。役所への届出と銀行の手続きは、連動していないからです。
口座が止まるのは、金融機関が名義人の死亡を知ったときです。
ただし、まだ動く状態だからといって、自由に引き出してよいわけではありません。亡くなった人の預金は相続財産で、あとでほかの相続人との話し合いで問題になることがあります。相続放棄を考えている場合は、預金を引き出して使うと放棄できなくなることもあるので、特に注意が必要です。
問題は、お金がないことではない
たとえ故人の口座に葬儀費用をまかなえる預金があっても、家族が当然に使えるわけではありません。
一方で、葬儀社への支払いは遺産分割が終わるのを待ってくれません。起きているのは、「お金はあるのに、必要なときに動かせない」という問題です。
だから、この時間差に対応する制度がある
2019年7月から、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で相続人が単独で預金を払い戻せるようになりました(民法909条の2)。
法務省は、この制度を「生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要」に対応するためのものと説明しています。
払い戻せる額は、次の式で計算します。同じ金融機関からは150万円が上限です。
相続開始時の預金額 × 3分の1 × その相続人の法定相続分
例:預金600万円を長男と次男の2人で相続する場合、長男が単独で払い戻せるのは、600万円 × 3分の1 × 2分の1 = 100万円。
知っているかどうかで、慌て方が変わる
この制度を知らないまま口座凍結に直面すると、残高が十分にあっても、葬儀費用の工面だけで慌ててしまいます。
ご両親の場合、葬儀費用はこの範囲でまかなえそうでしょうか。それとも、誰かが立て替えることを想定しておく方がよいでしょうか。
更新日:2026年10月15日 執筆:行政書士 大塚栄一

