障害福祉サービス事業所の多くは、利用者の現金や通帳を預かる場面に日常的に直面します。小遣いの管理、日用品の購入、通院時の支払いなど、理由はさまざまです。
しかし今回収集した自治体資料(横浜市・長野県・埼玉県・大津市)を横断すると、この「預り金管理」の体制不備が、単なる事務上の指摘にとどまらず「経済的虐待」と判断されるリスクにつながることが見えてきます。
本記事では、現場で見落とされやすい3つの盲点と、事業所が今日から確認できるチェック項目を整理します。
最初に確認したいポイント
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 通帳・印鑑の保管場所 | 同一の担当者・同一の場所で保管していないか |
| 責任者・補助者の選任 | 責任者1人だけで運用していないか |
| 預り証の発行 | 対象物品・金額を特定できる具体的な内容か |
| 点検・報告の頻度 | 指定権者が定める頻度を個別に確認しているか |
預り金管理とは――対象は現金だけではない
利用者本人による金銭管理が難しい場合に、依頼を受けて事業所が現金や通帳等を預かり管理することを指します。横浜市の資料では、預り金の対象は現金だけでなく、障害者手帳・年金手帳・健康保険証などの貴重品も含まれると明記されています。
- 現金
- 通帳
- 印鑑・銀行印
- キャッシュカード
- 障害者手帳・年金手帳・健康保険証等の貴重品
埼玉県・長野県・大津市の資料でも共通して、「預り金等管理規程」の整備、責任者・補助者の選任、複数人によるチェック体制が求められています。この規程がなかったり、あっても実態が伴っていなかったりする点が、各自治体で繰り返し指摘されていました。
現場でつまずく3つの盲点
盲点1:「事故がなければ大丈夫」ではない
もっとも重い指摘は横浜市の資料にあります。預り金の管理体制が整っておらず、不適切な処理や事故等があった場合、「施設従事者等による障害者虐待(経済的虐待)と判断される場合がある」と明記されているのです。
つまり預り金管理は「経理のルール」ではなく、「虐待防止の一部」として位置づけられています。横浜市の資料はあわせて、預かる現金の上限額を定めることや、出入金のダブルチェック体制を整えることを求めています。事故を未然に防ぐ体制そのものが、虐待の疑いを持たれないための備えでもあるといえます。
盲点2:通帳と印鑑、「同じ人・同じ場所」の落とし穴
長野県・埼玉県・大津市の資料に共通して挙げられていたのが、通帳と印鑑を同一の担当者・同一の場所で保管していた事例です。長野県の資料では「印鑑と通帳の保管が適切に行われていない」、埼玉県の資料では「責任者及び補助者の選定がなく、印鑑と通帳の保管が1人の職員で行われている」と、ほぼ同じ内容が指摘事項として並んでいます。
横浜市のグループホーム向け資料ではさらに具体的で、「現金・通帳・銀行印・キャッシュカードが一緒に保管されている」ことが指摘事項として明記されており、キャッシュカードの分離保管まで求められています。キャッシュカードが手元にあれば、通帳や印鑑がなくてもATMで引き出せてしまうため、見落とされがちですが実務上は重要なポイントです。
あわせて、預り証を発行していても「内容に不備がある」ケースも指摘されており、様式の有無だけでなく記載内容そのものの具体性も確認事項に入ります。
盲点3:「報告していればOK」ではない、頻度の基準は自治体で異なる
預り金の状況を定期的に点検・報告する頻度についても、自治体ごとに具体的な基準が示されています。「点検・報告さえしていれば大丈夫」と思い込まず、自事業所の指定権者が示す基準を個別に確認しておく必要があります。
| 自治体 | 点検・報告の頻度 |
|---|---|
| 埼玉県 | 収支状況を少なくとも四半期ごとに報告 |
| 長野県 | 管理者が3か月に1回以上、出納状況を点検・照合。利用者・家族へは年1回以上報告・確認 |
| 大津市 | 管理者が毎月確認するとともに、定期的に自主点検 |
長野県の資料では、第三者や内部監査員による年1回の監査も推奨されています。内部だけで完結させない仕組みも視野に入れておきたいところです。
事業所で今日から確認できること
以下は、今回確認した自治体資料に共通する確認項目です。順番に確認していくことをお勧めします。
-
預り金等管理規程を整備しているか
対象は現金だけでなく、手帳・保険証等の貴重品も含む -
管理の責任者と補助者を分けて選任しているか
1人の職員による単独管理になっていないか -
通帳と印鑑を別々の場所に保管しているか
施錠できる金庫等、それぞれ別の保管場所を用意しているか -
キャッシュカードも分離保管しているか
通帳・印鑑と同じ場所にまとめて保管していないか -
預り証を発行し、記載内容が具体的か
対象物品・金額等を特定できる内容になっているか -
出入金を複数人でチェックする体制になっているか
ダブルチェックの記録が残っているか -
預かる現金に上限額を設けているか
法人として多額の現金を抱え込む状態になっていないか -
指定権者が示す点検・報告の頻度を確認できているか
利用者・家族への定期報告の記録を残しているか
まとめ
預り金管理は、事故や不正がなくても「体制が整っていない」というだけで指摘の対象になります。そしてその先には、経済的虐待という重い判断につながる可能性がある――今回確認した資料が示していたのは、この距離の近さでした。
まずは通帳と印鑑の保管場所、規程の有無から見直してみてはいかがでしょうか。
※本記事は横浜市・長野県・埼玉県・大津市が公表した運営指導・集団指導資料をもとに構成しています。取扱いの詳細は、必ず各事業所の指定権者(都道府県・市)の最新資料をご確認ください。
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