小さな経営体のための「職場環境改善」読み解き②|人材確保・定着編

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経営者のための5分解説
小さな経営体の人材確保は、「採用」だけでは終わりません

人材確保というと、求人を出して応募者を集めることに目が向きがちです。しかし、小さな経営体では、一人を採用できても、仕事の理解や育成の仕組みが整っていなければ、定着にはつながりません。

今回お取り上げするのは、厚生労働省『障害福祉の職場環境改善事例集』に掲載されているエイムトップ様、なかワークトレーニングハウス様の取り組みです。

両事例に共通していたのは、採用・育成・定着を別々の課題として扱うのではなく、「人が来て、仕事を理解し、育ち、長く働く」までを一つの流れとして捉えていた点でした。

本稿では、小さな経営体における人材確保と定着の仕組みづくりを読み解いていきます。


①「エイムトップ様」のケース:採用前から始めるミスマッチ防止

(グループホーム「希望の扉」3か所/東京都東大和市/スタッフ10名・2024年3月現在)

エイムトップ様が人材定着の前提として重視していたのは、採用段階で仕事内容を具体的に伝えることでした。

入職前の「想像と現実のずれ」を減らす

事例集によれば、同事業所では、グループホームでの仕事内容をショートムービーや漫画で紹介しています。

ホームページの求人ページには、早番・中番・遅番・夜間のシフトと、それぞれの業務概要も掲載していました。

求人票の限られた情報だけでは、未経験者が実際の仕事を具体的に想像することは簡単ではありません。

そこで、応募前に仕事の内容や一日の流れを見える形にし、入職後に「思っていた仕事と違った」と感じる可能性を減らしていたことが読み取れます。

入職後の育成を、本人任せにしない

入職後は、15項目に分類した業務マニュアルを、職員がいつでも確認できるよう共有しています。

さらに、

・年間約15回の外部研修への参加
・毎日の個別ミーティング
・資格取得や教材購入費用の支援
・パート職員から正社員への雇用転換
・定年後の再雇用

といった仕組みも設けられていました。

採用広報

業務マニュアル

研修・資格取得支援

キャリア形成

という流れを、単発の施策ではなく、「長く働くための仕組み」として一本の線で整えていた点が印象的です。


②「なかワークトレーニングハウス様」のケース:発信が採用と育成をつくる

(就労継続支援B型/横浜市/スタッフ9名・2024年2月現在)

なかワークトレーニングハウス様は、開設当初、障害福祉分野でのキャリアを持つ職員が代表者一人だけという状況から事業を始めています。

利用者も少なく、事業所の取り組みや職場の雰囲気を外部へ伝える手段も、ほとんどない状態だったと紹介されています。

「うちはこういう現場です」を発信し続ける

そこで取り組んだのが、日々の業務の様子や法人としての取り組みを、ブログとYouTubeで継続的に発信することでした。

採用活動では、待遇や勤務条件だけでなく、

「どのような考え方で支援しているのか」
「どのような人たちが働いているのか」
「日々どのような仕事をしているのか」

が伝わることも、応募者が職場を選ぶ際の判断材料になります。

日常の取り組みを言葉と映像で積み重ねることが、事業所の考え方に共感する人材と出会う入口になっていったようです。

目標と発表の機会を、育成の仕組みにする

同事業所では、人材を集めるだけでなく、職員の育成と定着にも取り組んでいます。

「目標支援制度」では、職員が自ら目標を立て、年3回の面談で達成状況を確認します。

また、年1回の「事例技術発表大会」を設け、日々の支援における工夫や取り組みを発表する機会をつくっています。

仕事の成果を売上や件数だけで評価しにくい障害福祉の現場では、日々の工夫や支援の改善が見える形で評価されることにも意味があります。

発信を通じて共感する人材を集め、目標と面談によって育成し、発表の機会によって日々の取り組みを評価する。その流れを、小さな組織の中で仕組みにしている事例として読むことができます。


二つの事例は、取り組み方が異なります。

エイムトップ様は、採用前の情報提供から、マニュアル、研修、資格取得支援、キャリア形成までを一つの流れとして整えていました。

なかワークトレーニングハウス様は、日常の取り組みを発信し続けることで人材を集め、目標設定と面談、発表の機会によって職員を育てていました。

両事例に共通していたのは、

・採用した後の育成を考えていること
・職員が仕事を理解する仕組みを持っていること
・成長やキャリアを確認する機会を設けていること

でした。

採用、育成、定着を別々に考えず、一つの流れとして整えることが、人材確保を一時的な求人活動で終わらせないための重要な前提なのかもしれません。


【ご参照】離職の影響を「採用費」だけで考えない

※以下は事例企業の実データではなく、小規模事業所を想定した参考試算です。

一人が離職した場合の影響は、求人広告や紹介手数料だけではありません。

欠員が生じている間は、他の職員が業務を分担し、新たな職員を採用した後には、仕事を説明し、同行し、確認する時間も必要になります。

例えば、欠員を補うために3人の職員が一日30分ずつ業務を追加で担い、その状態が40日続いた場合、

30分 × 3人 × 40日 = 60時間

になります。

これに採用活動、面接、勤務調整、引継ぎ、新任職員への説明や同行の時間が加わります。

あくまで参考試算ですが、一人の離職は、残った職員の勤務負担や管理者の時間配分にも影響します。

だからこそ、人材確保は「辞めてから採用する」だけではなく、

・入職前に仕事内容を正しく伝える
・仕事の手順を確認できるようにする
・相談や面談の機会を設ける
・学びや成長を評価する
・将来の働き方を示す

といった、離職を防ぐための仕組みと一体で考える必要があります。

小さな経営体では、人材育成に使える時間も限られています。しかし、一人の離職によって失われる時間を考えれば、日常の中に育成や面談の仕組みを組み込む意味は小さくありません。


【制度と運営の視点】

今回紹介した取り組みは、動画を作る、マニュアルを整える、ブログを書く、面談をする、研修へ参加する、発表の機会を設けるという、どれも一つひとつは地道なものです。

一方で、小さな経営体ほど日々の運営が優先され、採用広報や育成の仕組みづくりは後回しになりやすい面があります。

前回は、転記や検索に使う時間を減らし、支援や運営判断へ戻すための業務整理を取り上げました。

今回は、人を探し続ける状態から抜け出すために、人が育ち、長く働ける仕組みを整えるという話です。

近年は、こうした取り組みが制度上も重視されています。福祉・介護職員等処遇改善加算の職場環境等要件では、研修の実施、資格取得支援、職場環境の改善、生産性向上などに関する取り組みが位置付けられています。

ただし、制度上の要件を満たすためだけに研修や面談の形を整えても、人材の定着へ直ちにつながるとは限りません。

誰に来てほしいのか。入職前に何を伝えるのか。仕事をどう覚えてもらうのか。成長をどのように確認するのか。

採用から定着までの流れを整理することが、制度対応にとどまらない運営基盤づくりにつながっていくのかもしれません。


小さな経営体のための「職場環境改善」読み解き③「休暇制度の充実編」
上尾あゆみ会ふじ学園様

次回は、限られた人員体制の中で、職員が休暇を取得できる環境をどのように整えるかを取り上げます。

勘や経験だけに頼らず、必要な人員配置を確認しながら勤務体制を組み立てる取り組みを通して、小さな経営体における休暇制度と労務管理を読み解いていきます。

(参考:厚生労働省「障害福祉の職場環境改善事例集」)