業務効率化の本質は、便利なツールを入れることではありません。限られた人材と時間を、より価値ある支援や運営判断へ戻すための業務整理です。
今回お取り上げするのは、厚生労働省『障害福祉の職場環境改善事例集』に掲載されているコレカラ堂様、りたはうす様の取り組みです。両事例に共通していたのは、「どのツールを入れるか」ではなく、「現場のどこに重複・転記・探す時間があるか」を先に整理していた点でした。
本稿では、その“業務改善の手前”にある現場整理のプロセスを読み解いていきます。
①「コレカラ堂様」のケース:日々の「書く」に潜む重複業務
(就労継続支援B型/東京都足立区/スタッフ6名・2024年2月現在)
事例集によれば、コレカラ堂様では、まずスタッフが日々どのような記録を書き、どこへ転記しているのかを整理するところから始めています。
「何度も書く」が当たり前になっていた状態
利用者の様子や支援記録を、
個人メモ
↓
日誌
↓
連絡帳
↓
実績記録票
という形で、複数回書き写していた状態が続いていたと紹介されています。
現場では記録業務も重要な仕事です。一方で、同じ内容を何度も転記する運用が続くと、「書くこと」そのものに時間や集中力が割かれてしまう可能性があります。
「書く場所」を整理するという発想
この事例で印象的だったのは、システム導入以前に、
「どこに書けば、必要な情報へつながるか」
という情報の流れを整理していた点でした。
紙をデジタルへ置き換えることが目的ではなく、記録の流れそのものを見直していたことが、その後の運用定着につながった要因の一つだったのかもしれません。
②「りたはうす様」のケース:「探す時間」と情報共有
(グループホーム/山口県防府市/スタッフ7名・2024年3月現在)
一方、りたはうす様では、紙運用による検索性や情報共有の難しさが課題となっていたと事例集は紹介しています。
「過去の記録が活かしづらい」状態
紙ファイル中心の運用では、過去の支援経過や利用者の状態変化を振り返る際に、多数の記録から必要な情報を探す作業が発生します。
また、情報が物理的にその場へ行かないと確認できない場面では、タイムリーな共有が難しくなることもあるでしょう。こうした環境では、支援の経過や気づきが個人の経験の中に留まりやすくなるリスクも、一般的には考えられます。
「同じ情報を見られる環境」を作る
事例を見る限り、りたはうす様ではデジタル化の目的を「効率化」だけではなく、
「スタッフ全員が必要な情報へアクセスしやすくすること」
として整理していたように読めました。
目的の整理が先にあったからこそ、導入後の運用も比較的スムーズに進んだのかもしれません。
両事例を通して感じたのは、トップや推進役が、
・どこに重複があるか
・どこで転記が発生しているか
・何を探す時間が生まれているか
を整理した上で改善に着手している点でした。
ツール導入の前に現場を整理することは、形骸化を避けるための重要な前提条件の一つなのかもしれません。
【ご参照】数字で見る「業務整理」の経営インパクト
※以下は事例企業の実データではなく、一般的な小規模事業所(スタッフ数名〜10名前後)を想定した参考試算です。
現場負担の軽減という視点だけでは、日々の運営に追われる中で優先順位を上げづらい場面もあるかもしれません。そこで、業務整理を「時間」という視点で考えてみます。
例えば、スタッフ3人が毎日30分、同じ内容を複数帳票へ転記していた場合、
30分 × 3人 = 1.5時間/日
月20日稼働とすると、年間約360時間になります。
あくまで参考試算ですが、時給1,500円換算では約54万円相当になります。ただ、本質は金額そのものではなく、「その時間を何へ振り向けられるか」にあるように感じます。
例えば、
・加算管理
・関係機関との連携
・利用者対応
・採用や定着支援
・新規利用者対応
など、小さな経営体ほど、限られた時間の再配分が運営へ与える影響は小さくありません。
また、障害福祉分野ではICT導入に関する補助事業等を活用できるケースがあります。初期投資を抑えながら業務改善を進められる可能性があり、詳細は管轄自治体の障害福祉担当窓口等へ確認するとよいかもしれません。
さらに近年は、職場環境改善や生産性向上の取り組みそのものを評価する制度も整備されています。
例えば、福祉・介護職員等処遇改善加算の職場環境等要件では、生産性向上や業務改善に関する取組が位置付けられており、ICT活用はその一要素として整理されています。
本稿では代表例のみ紹介していますが、実際には事業種別、規模、人員体制、現在算定している加算状況等によって活用できる制度や支援策は変わります。
「うちの場合はどうなのか」という疑問が生まれたときが、整理を始めるよいタイミングかもしれません。
【制度と運営の視点】
今回ご紹介した事例は、特別な仕組みを導入したというより、
「同じことを何度も書いていないか」
「探す時間が生まれていないか」
という日常の違和感を整理した取り組みとして読むこともできるように思います。
意思決定者と現場の距離が近い小さな経営体は、本来、小さく試し、早く修正できる強みを持っています。
日々の運営の中でまとまった時間を取ることは難しいかもしれませんが、まずは「毎日の10分の転記」を疑ってみること。そこから始まる整理が、結果として制度活用や運営改善につながっていくのかもしれません。
小さな経営体のための「職場環境改善」読み解き②「人材確保及び定着編」
なかワークトレーニングハウス様・グループホーム希望の扉様
小さな経営体ほど影響の大きい「離職」というテーマについて、採用前の情報提供から育成・定着までを一本の仕組みとして整えた事例と、発信し続けることで人を集め育てる環境をつくった事例を読み解いていきます。
(参考:厚生労働省「障害福祉の職場環境改善事例集」)



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