小さな経営体のための「職場環境改善」読み解き③|休める職場をどうつくるか

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経営者のための5分解説
休暇制度は、「休んでよい」と伝えるだけでは機能しません

職員に休暇を取ってもらいたいと思っていても、日々の勤務をぎりぎりの人数で回している現場では、制度を設けるだけでは休みやすい職場にはなりません。

今回お取り上げするのは、厚生労働省『障害福祉の職場環境改善事例集』に掲載されている、社会福祉法人上尾あゆみ会 ふじ学園様と、補助線として社会福祉法人青谷学園様の取り組みです。

規模や導入した制度は異なりますが、両事例に共通していたのは、休暇を職員個人の申し出や職場の善意に委ねず、人員配置、業務効率、勤務制度を含めた運営の仕組みとして整えていた点でした。

本稿では、限られた人員体制の中で「休める職場」をつくるための考え方を読み解いていきます。


①「ふじ学園様」のケース:「自己犠牲」を前提にしない職場づくり

(障害者支援施設/埼玉県上尾市/スタッフ26名)

事例集では、ふじ学園様が抱えていた課題として、次の二つが挙げられています。

・「自己犠牲」の風潮があり、休暇を取得しづらい雰囲気があったこと
・業務効率が悪く、職員同士のコミュニケーションが不足していたこと

福祉の現場では、「利用者のために」という意識が強いほど、職員が自分の休暇取得を後回しにしてしまうことがあります。

しかし、休暇を申し出にくい空気は、休暇制度の規程だけを変えても解消しません。ふじ学園様が取り組んだのは、その空気を生んでいる運営の構造そのものを見直すことでした。

「休める現場」にするため、先に配置を厚くする

最初の取り組みは、職員の配置を、国の配置基準である「2対1」を上回る水準に設定し、必要な人数を確保することでした。

ここで重要なのは、「職員が26名いるから休めた」のではなく、「休める現場にするために、意図的に配置を厚くした」という順序です。

人が足りないから休めない。しかし、休めない職場には人が定着しにくく、退職者が出れば、さらに残った職員の負担が増えます。

人員を厚く配置することは短期的には人件費の増加につながりますが、離職、採用、引継ぎ、育成を繰り返す負担まで含めれば、中期的な運営判断として捉える必要があります。

一斉に休む仕組みから、分散して休める仕組みへ

ふじ学園様では、お盆時期の一斉休業を廃止し、夏季休暇を6月から11月までの間に分散して取得できる制度へ変更しています。

休暇が特定の時期へ集中する運用を見直し、職員がそれぞれの事情に合わせて連続した休暇を取得できるようにした取り組みです。

さらに、

・時間単位での有給休暇取得
・男性職員の育児休業取得の奨励
・新卒1年目からの有給休暇付与

なども実施しています。

とりわけ、新卒1年目から休暇を取得できる仕組みは、制度上の利便性だけでなく、「この職場では入職直後から休んでよい」というメッセージにもなっていたのかもしれません。

もちろん、小規模事業所が直ちに同じ人員配置や休暇制度を導入することは容易ではありません。

それでも、勤務表の組み方、休暇申請のルール、繁忙期の偏り、特定の職員に集中している業務を見直すことは、規模を問わず始められる取り組みです。


②業務効率化が、休暇を取得できる土台をつくる

ふじ学園様の取り組みは、休暇制度の変更だけではありませんでした。

職員一人につき一台のパソコンを導入し、業務の隙間時間に支援記録を入力できる環境を整えています。

勤務時間内に業務を終わらせる環境をつくる

記録業務を勤務時間内に進められるようにすることで、業務を終業後へ持ち越さない運用が定着していったと紹介されています。

その結果、令和4年度の月平均残業時間は、約1時間まで減少しています。

記録業務が勤務時間内に収まる

残業時間が減る

職員同士が予定を調整しやすくなる

休暇を取得しやすくなる

という流れで、職員同士がお互いの予定を調整しながら休暇を取得するようになったことも、事例集では紹介されています。

「休暇制度」と「業務効率化」を別々の課題として扱わなかったことが、この事例の重要な点です。

休暇を増やすだけでは、残された職員の業務が増える可能性があります。反対に、業務を効率化しても、その時間を休暇取得へ振り向ける仕組みがなければ、別の業務で埋まってしまいます。

人員配置、業務効率化、職員同士の調整を一体で進めた結果、5日以上の連続休暇を取得した職員は、法人全体で44%に達したとされています。


③「青谷学園様」のケース:働き方そのものを組み替える

(社会福祉法人/京都府城陽市/スタッフ99名)

規模の異なる事例として、青谷学園様の取り組みも見ておきます。

同法人が導入したのは、一日10時間勤務、週休3日、年間休日173日という変形労働時間制です。給与の減額を伴わず、休日数を増やす勤務制度として運用されています。

事例集では、2023年度の月平均時間外労働が15分、有給休暇取得率が91.4%だったことも紹介されています。

規模が違っても、課題の構造は同じ

青谷学園様とふじ学園様では、法人の規模も導入した制度も異なります。

しかし、

・人材を確保しにくいこと
・職員の定着を図る必要があること
・サービスの質を維持する必要があること
・職員の仕事と生活の両立を支える必要があること

という課題の構造は共通しています。

両事例とも、職員が休暇を申し出るのを待つのではなく、先に「休める働き方」を設計していた点で共通していました。

小規模事業所が週休3日制をそのまま導入することは難しい場合がありますが、勤務時間や休日の組み方を固定観念のまま運用していないかという視点は、規模を問わず参考になります。


今回の二つの事例を通して感じたのは、休暇を「職員への福利厚生」としてだけ捉えていないことでした。

休めない職場から職員が離れる

欠員を残った職員が補う

さらに休暇を取得しづらくなる

新たな離職につながる

という循環を断ち切るため、

・配置する人数を見直す
・勤務制度を見直す
・記録業務を効率化する
・休暇取得のルールを明確にする
・職員同士が予定を調整できる環境をつくる

という複数の取り組みを組み合わせていました。

休暇制度は、職員個人への恩恵ではなく、事業を継続するための運営基盤として考える必要があるのかもしれません。


【ご参照】休暇を取得できない状態の経営負担

※以下は事例法人の実データではなく、小規模事業所を想定した一般的な考え方です。

職員が休暇を取得しない状態は、一見すると勤務可能な時間が増えているように見えます。

しかし、休暇を取れない状態が続けば、疲労の蓄積、体調不良、業務上の見落とし、離職などにつながる可能性があります。

一人が離職した場合には、求人、面接、勤務調整、引継ぎ、新任職員への説明や同行など、多くの時間が必要になります。

また、欠員期間中は、残った職員がその業務を分担することになり、休暇をさらに取得しにくくなることもあります。

休暇制度を整えることは、単に休日を増やすことではありません。

・どの時間帯に人手が必要なのか
・誰にしかできない仕事があるのか
・記録や会議にどれだけ時間を使っているのか
・休暇取得時に誰が業務を引き継ぐのか
・年間を通じて休暇が偏っていないか

を確認し、勤務体制を計画的に組み立てることでもあります。

人員基準を満たすことは当然の前提ですが、基準ぎりぎりの配置で日々の欠勤や休暇まで吸収できるとは限りません。

「配置基準を満たしているか」だけでなく、「実際に職員が休める勤務体制になっているか」という視点も、安定した運営には必要です。


【制度と運営の視点】

近年、職員の働きやすさや業務効率化は、制度上も重視されています。

福祉・介護職員等処遇改善加算の職場環境等要件では、ICTの活用、業務の改善、職員の負担軽減、働きやすい職場づくりなどに関する取り組みが位置付けられています。

ただし、加算要件として取り組みを掲げることと、実際に職員が休める状態をつくることは同じではありません。

人員配置

業務効率化

勤務調整

休暇取得

職員の定着

という流れを一体として整えることが、制度対応にとどまらない運営基盤づくりにつながります。

前回は、「忙しいから人を育てられない」のではなく、「忙しいからこそ人を育てる仕組みをつくる」という事例を取り上げました。

今回も同じです。「忙しいから休めない」と考えるだけではなく、忙しい現場だからこそ、休暇を取得できる人員配置と業務の仕組みを先に整える。

休める職場をつくることは、人材確保、職員定着、支援の質、事業継続を支える経営上の課題として考える必要があります。


3回の事例から見えてきたこと

3回にわたり、厚生労働省『障害福祉の職場環境改善事例集』に掲載された事例を読み解いてきました。

第1回では業務効率化、第2回では人材確保と定着、第3回では休暇制度の充実を取り上げました。

テーマは異なりますが、どの事例にも共通していたことがあります。

・課題を別々の問題として扱っていないこと
・忙しいから後回しにするのではなく、忙しいからこそ仕組みをつくっていること
・一度の大きな改革ではなく、日々の地道な取り組みを積み重ねていること

です。

小さな経営体ほど、日々の運営が優先され、業務改善、人材育成、休暇制度の見直しは後回しになりがちです。

しかし、事例集から読み取れるのは、「大きな法人だからできた」ということだけではありません。

現場のどこに負担があるのかを確認し、何を優先するのかを先に決め、小さな取り組みを続けていたことが、変化につながっていました。

制度、加算、人材、ICT、休暇。これらは別々の課題に見えますが、実際の運営では互いにつながっています。

そのつながりを整理しながら、現場に合った仕組みを少しずつ整えることが、職員を支え、利用者支援を支え、事業の継続を支えることにつながっていくのだと思います。

日々の支援と経営の両立に向き合う中で、運営の仕組みを見直すきっかけとして、これらの事例を活用してみてはいかがでしょうか。

(参考:厚生労働省「障害福祉の職場環境改善事例集」)